Kさん(仮名・42歳男性・福岡県・建設会社事務)から届いた話。
「中国輸入で月100万」を謳うスクールに90万円。仕入れ商品は税関で関税の壁、結局、ほぼ全損で撤退。
「YouTube動画の説明では、関税の話は一切出てきませんでした」。取材冒頭、Kさんはそう振り返った。
建設会社事務、子育て中の中堅家庭
Kさんは、福岡市内の建設会社で事務職を10年。年収は約480万円、妻はパート、子は小学生が一人。住宅ローンは月10万円、子の教育費の積立も毎月、家計に余裕は少なかった。
「子の中学受験が近づいて、教育費の追加捻出が必要になっていた時期でした。月収を底上げできる副業を、本気で探していた」
YouTube動画、『中国輸入で月100万・誰でもできる』
2024年の春。Kさんは、YouTubeのおすすめ動画で、中国輸入スクールの案内を見つけた。
動画タイトルは、「中国輸入で月100万・誰でもできる」。再生回数は約80万回、コメント欄も好意的なものが目立った。
「YouTube動画は、Instagram広告よりも信用しやすい感覚がありました。コメント欄の評価も高くて、複数の動画で同じスクールが紹介されていた」
無料セミナー、ホテル会議室
Kさんは、福岡市内のホテルでの無料セミナーに参加。参加者は約30名、40〜50代の男性が中心。
講師は30代男性、「元サラリーマン・現役中国輸入プレイヤー」を自称。月収300万円の収益スクショ、税関通過証明書、中国側仕入れ先のWeChatチャット履歴。具体的な資料が、画面に次々と表示された。
「『資料の具体性が高い』というのが、強い印象でした。Instagram広告の抽象的な動画とは違う、と感じた」
90万円、教育費の積立から
セミナーの最後、有料スクール3か月コース、90万円。
「中国輸入の仕入れ・通関・販売の全フロー、運営側のサポート付き」
Kさんは、3日間考えた後、申込みを決断。子の教育費として積み立てていた預金から、90万円を切り出した。
「妻には、『副業準備の教材費』とだけ伝えました。金額は伝えていない、伝えたら止められると思った」
3か月プログラム、中国仕入れ先の紹介
プログラムの中身は、Zoom録画10本、PDF教材150ページ、運営LINEでの質問対応、そして『提携の中国仕入れ業者』の紹介。
Kさんは、教材通りに、紹介された中国仕入れ業者経由で、最初の仕入れを実施。雑貨類10点、合計約15万円分。
税関で、関税の壁
商品が日本到着、税関通過の段階で、Kさんは初めて『関税』の存在を知る。
仕入れた雑貨類は、関税率約8%+消費税10%+通関手数料、合計で約3万円の追加負担。さらに、品目によっては『食品衛生法』『電気用品安全法』などの規制対象になり、別途許可が必要なケースも判明した。
「教材にも、無料セミナーにも、YouTube動画にも、関税と日本の法規制の話は、一切出てきませんでした」
運営LINE、『関税はあなたの責任』
Kさんが運営LINEで状況を相談すると、回答は、こうだった。
「関税は輸入者の責任で対応してください。教材の対象範囲外です」
「商品の規制適合性も、ご自身でご確認をお願いします」
「『教材の対象範囲外』──この言葉が、いちばん効きました。あれだけ『誰でもできる』と言っていたのに」
仕入れ商品、3か月で約4万円分しか売れない
Kさんは、Amazon・メルカリで雑貨を出品。3か月で売れたのは10点中3点、合計約4万円分。
残り7点は売れ残り、保管スペースは自宅クローゼットの一角。家族からは「邪魔だから処分して」と言われている状態。
累計収支、約75万円の赤字
Kさんが集計した数字は、こうだった。
スクール代90万円+仕入れ代15万円+関税・諸経費約5万円+送料約2万円=累計支出112万円。
累計売上は約4万円。差し引きで、赤字は約108万円。
「子の教育費の積立から90万円、家計の生活費から差額──結局、家族の将来資金が、ほぼ消えた形になりました」
妻に告白した日
プログラム修了から1か月後。Kさんは、妻に90万円のスクール代と、トータルの損失を告白。
「妻は、まず黙りました。それから、『なぜ最初に相談してくれなかったの』と。その一言が、いちばん応えました」
夫婦で福岡県消費生活センターに相談、現在交渉中。返金見込みは約15万円前後。
取材の最後に、Kさんが伝えたかったこと
「これから海外輸入の副業を検討する方に伝えたい。『関税』『消費税』『規制適合性』──これらの話が、無料セミナーや動画で一切出てこない場合、その教材は実態と乖離しています。中国輸入で月100万、というキャッチ自体は嘘ではないかもしれない。ただ、そこに至るまでの法的・税務的なハードルを、教材が網羅していない時点で、スクール費用90万円を払う価値はありません」
振り返り:3つの教訓
1. 海外輸入の副業教材で『関税』『消費税』『規制適合性』の説明がない場合、教材は実態と乖離している。輸入実務の中核を欠いた教材に、90万円の価値はない。
2. YouTube動画の高評価コメント・再生回数は、有料宣伝で操作可能。動画の信頼性は、コメント数・再生回数ではなく、登場人物の身元の透明性で判断したい。
3. 教育費・住宅資金など『家族の将来資金』を副業に投入することは、生活設計上のリスク集中。本業に大きな影響が出ない、失っても家計が破綻しない金額の範囲で試す。これが原則だ。